Step into the groove!

及川光博さんの楽曲を語ります。

6. ラヴソング

こんにちは、ヴェルデです。

 

期末の追い込みで連投します。アホっぽいですね。アホなので仕方ないです。

 

突然ですが、ミッチーさんは1996年のデビューからほぼ毎年アルバムを出しており*1、リリースはかなりの曲数があります。

ただ、レーベルを割と頻繁に移籍されている*2関係で、全てがサブスクにあるわけではないということもあって、私もまだまだすべては聴ききれていません。

 

そして、ほとんどの曲の作詞は、ミッチーさんが自ら手がけています。

作曲も多くの曲(特に初期のもの?)でされているのですが、作詞に比べると作曲のほうは作曲家さんが担当している割合が大きいです。

つまりは、及川光博の曲を及川光博の曲たらしめているのは、本人により描かれる「詞世界」である、といえましょう。

 

そんな及川光博楽曲の中で、特別多いテーマ、モティーフがあるのですが、それはいったいなんだと思いますか?

 

 

 

正解は、ズバリ「愛」です。

 

愛といっても友愛や敬愛やさまざまありますが、彼の曲で語られるのは専らオーソドックスな恋愛の愛です。

 

 

ということで、今回から数回、いろいろな愛が描かれている楽曲を集めてきて見ていこうと思います。書けるだけ書きます。

 

 

まず初回は、迷いましたが、「ラヴソング」とド直球に銘打たれているこちらの曲でいきたいと思います。

 

ラヴソング/及川光博

ラヴソング

ラヴソング

LINE MUSIC

 

この曲、タイトルこそド直球ですが、実は歌詞を見ていくとむしろ「婉曲」の極みなのです。

そこがただのラブソングではない彼の独自性であり、私の大好きなところであり、そしてミッチーがアイドルではない所以でもあるかもしれません。*3

 

さてこちら、中期(?)ミッチーさんの貴重なシングルです。*4

作詞はもちろんミッチーさん、作曲は深沼元昭さんという方です。この方の作曲はなかなか個人的にツボで深沼さんのソロプロジェクトのほうにゲストボーカルでミッチーさんが参加している曲が1曲あって*5それがまあ素晴らしくてつい最近知ったばかりではあるけれどハマりかけてる、というのはまた別の話。

信頼関係のあるお二人のようなので(この時期の制作に大きく関わっていらっしゃったことがクレジットから見て取れます。)、詞曲のマッチングは言うことなしです。

 

音遣いもなかなか個性的で、私の耳ではタンボリンに聴こえるのですが、普通のポップスやロックとはちょっと違った打楽器の音がよく目立ちます。タンボリンというのはブラジルのサンバに使われる楽器でして、他にもサンバチックな音がいくつか聴こえる気がします。マツケンサンバがサンバじゃないのはそろそろ周知の事実になってきたかと思いますが、リオのカーニバル、あちらを思い浮かべまして、リオのカーニバルみたいなラヴソング、というのはなかなか奇抜なセンスではないでしょうか。

あと個人的な好みで大変恐縮ですが随所に散りばめられた16分音符のチキチキチキチキ(クローズドハイハット?)がたまらないです。

 

それではお待たせいたしました、歌詞のほうを見ていきましょう。

全文引用して逐一ああだこうだ言いたい気持ちをぐっと抑えてポイントを抜き出していきたいと思います。

 

僕が君を照らす光になる

君を包むコートになる

笑うなよBaby もう決めたんだ

サビ冒頭です。

愛してるでもそばにいてでもありません。

――洒落たプロポーズ、いや文豪の書簡でしょうか?

擬人法ならぬ擬物法をサビ頭にもってこれるセンスは只者ではないと思うのは惚れた欲目でしょうか。

そして、君のことを支えたい、という愛の形。でも控えめなわけでは決してなく、とっても情熱的です。

絶対に“出会わなきゃよかった”なんて

言わせない…言わせるもんか

降りつもる雪が 溶けてしまうほど

熱いキスを交わそう

もう恋なんてしないなんて〜言わないよ絶対〜♪並みにややこしいですね。

「出会わなきゃよかった」なんてセリフ君には言わせないぞ僕は、というわけです。

どういう想定だよ、と思いますけれどもね、よく歌詞を読んでみると、この僕と君はおそらくフラれた者どうしだということがわかるので、他の奴が君に吐かせたセリフだったのかもしれません。

「僕にしとけよ」なんてことは言わないんです、言わないんですが、言わずに言ってるんです。直接的に言うよりもずしんと重たいのが不思議なものです。

そしてサビの締めはやっとストレートに、でもやっぱり比喩を使って、ロマンチックに落としています。*6

 

そして2番ではロマンチックが加速していきます。

未完成な僕と未完成な君なのさ

傷ついた恋も一度や二度じゃないのさ

 

ギザギザの心はきっと

歯車のようにかみあってゆく

そして動き出す未来

傷ついた者どうしが惹かれ合うのは心が歯車のようにかみあうからだと。発想力の勝利です。それに比喩の引き出しの多さったら。釜爺か。

歯車→動き出すを連想して、「未来」という言葉につなげるというのも文章として美しすぎて嫉妬の涙を流さざるを得ません。文学部出身ですか? いいえ法学部です。

 

少し飛ばしまして(泣く泣くですよ)2番の終わり。

お伽噺のような「永遠」はないけれど

続いてゆく物語

ここ。「永遠」はない、という当たり前の現実を、解って言い切って受け入れています。口先で永遠を誓ったりはしないんです。だからこそ真摯な想いが伝わってきます。

最後の「物語」はストーリーと読ませます。2音節で5文字分、歌として少ない音数でより多くの意味を与えるというコスパは大事です。

これは「お伽噺」に対応しているわけですね。とってもロジカルな詞です。

 

そして曲調も落ち着くCメロ。

言葉だけじゃ君を守れない

今はただ 届けたいこのラヴソング

これだけ素敵に言葉を尽くしてきたのに、言葉だけじゃ守れない、ですって!? ……すみません落ち着きます。

確かに、いくら素敵な言葉を紡いだところで内実が伴うとは限りませんよね。

そのこともやはり解った上で、それでも今できることは、このラヴソングを届けること、だから歌うのだと、私はそう行間を埋めてみます。歌詞の主人公と実際に目の前でこの歌を歌ってくれるミッチーさんとが重なりあう瞬間でもあると思います。最後のサビに入る直前のことです。

 

そのまま最後にもういちど1サビの歌詞を繰り返し、鳴き喚くかのようなギターソロの流れ着いた先で曲は終わります。(終わり方の滑らかさが好きです。)

 

ミッチーさんの作詞、ほとんどが1サビの歌詞を最後に繰り返すという形になっています。*7これは、伝えたい思いはやっぱり1サビにガツンと置かれている、ということなのではないかなと私は思っています。いや、歌詞が覚えられないからかも知れませんけども……でも……。

 

終わりに、冒頭で述べた、アイドルではない所以、の部分を軽く説明させていただいてゴールしたいと思います。

 

私が思うに、アイドルというのはやはり夢を与える仕事、明るい面、キラキラした部分をこそ打ち出していくものではないでしょうか。……最近でこそアイドルを名乗るダークな世界観の人々もいるのはわかっていますが。

そう考えたときに、及川光博楽曲の世界観としては、切ないとか、思うようにいかないとか、そういう明るいだけではない部分が濃く影を落としている*8、そこが彼をアイドルと呼ぶのに違和をおぼえる点なのではないかなと、私は思いました。

もちろん、別にそうではない曲だっていくつもあるのですが。そればかりではない、それがメインなわけではない、と私は捉えているのです。「キラキラしよう☆」は確かにミッチーの大きな要素であり、パブリックイメージでもあります、でも、それだけじゃダメだってことを本人が強く認識しているのかもしれません。そうだといいな素敵だなと勝手に思っておきます。

 

 

目標範囲内には収まったかなという感じです。少しでも興味が湧いてくださった方は、文学として一度歌詞を読んでみていただけたらうれしいことこの上ないです。

お付き合い頂きありがとうございました。

 

ちゃお!

*1:シングルやベスト盤等も合わせると毎年必ず何かしらリリースされています。DISCOGRAPHY|及川光博 オフィシャルサイト

*2:東芝EMIワーナーミュージック・ジャパン→TRICKSTAR RECORDS/喝采(キングレコード?)/同時期に一部ランティス→(1枚だけMastard Records→)ビクターエンタテインメント、かと思われます(私調べ)。

*3:前回の記事でツッコミいただいたアイドルの定義について、あれからずっと考えていましたが、その回答もこちらに織り込めればと思います。

*4:翌年にアルバムにも収録されています。LINE MUSICのほうはせっかくなのでアルバムからもってきました。が、特に差はありません。

なぜ貴重かというと、初期のミッチーはレコード会社の方針でシングルをバンバン打ったとのことでしたが(ライブのMCより)、その後はシングルよりもアルバムのリリースがメインとなっており、ワーナーからはこの1枚のみ、また最新のシングルも2015年のものです。

*5:こちらです。

Folly-@Cote d’Azur

Folly-@Cote d’Azur

*6:ちなみに、先日見た過去のライブ(2003年「うたかた。」)のDVDでは、「降りつもる雪が〜」の歌詞を「過ぎてゆく時を止めてしまうほど」に変更して歌ってらっしゃいました。おそらく、冬過ぎて春来るらし4月の公演だったからと思われます。その前の「コート」も「風」にしていました。君を包む風になる、なるほど素敵です。

*7:もしくは1サビ+2サビ。一般的なJ-POPの形式だと言われればそれまでですが、それにしても少し歌詞を変えたりすることもなく(あるいは3番の歌詞を作るでもなく)そのまま同じであることが多い、ということも鑑みまして……

*8:この曲であれば、幾度も傷心した者が、諦観を滲ませながらも前に進んでいこうとしている、という、一筋縄ではいっていないというところです。